無題

「お前、夏休みどこか行くの?」
「あー、親父の田舎に帰る」
「田舎どこだっけ?」
「北海道」
「お、いいじゃん、涼しそうで」
「ガキの頃はよかったんだよ。ホタルみたり、せみの抜け殻集めたり、川釣りで喜んでいたから、浪人生がなんで好き好んであんな遠くまでいかにゃならねーんだ」
「親もきにしてるんでないの?息抜きになるから一緒に来なさいとか言ったんだろ?」
「そうだよ。なんで息抜きになるってわかるんだ!って言ってやった」
「そうぴりぴりするなよ。で、夏期講習なに受けるの?」
「あー長岡のぐんぐんと苑田の力学でいいかなーって、あと有名大とって復習中心にするわ」
「へー少ないな、余裕なのか。この間の模試良かったの?」
「まぁめっちゃいいわけじゃないけど、春からずっと成績上がってるって浪人生にしては珍しいらしいよ。塾の先生いわく。それなら問題演習ひたすらのほうがいいかなって」
「あーいいよなー、もうたくさん授業とらないと不安でしょうがないよ、俺は」
「まぁ人それぞれだから、なんか田舎に行く気がでてきた、じゃあねー」
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俺の田舎は北海道のど真ん中、富良野にある。おじいちゃんはペンションを営んでいて冬になると忙しいぶん、夏は自給程度の農業と、スローライフを求めて脱サラしてきたおっさん相手に先生になっていたりしている。
脱サラして農業や酪農に挑戦する人は結構多い。脱サラできずに都会に戻っていく人もまた多い。
半年間運動していなかったので農業の手伝いは結構つらかった。まぁかぼちゃの選別をしてて腕が筋肉痛になったくらいだから運動できてよかったよ。あとトラックの荷台って結構怖いのね。もう乗りたくない。高校を卒業したということで、大人公認でお酒を飲ませてもらった。いいね、大人って色々楽しみがあっていい。すごくいい。去年まではそんな話聞いてなかったのにススキノのネタをそんなに持っているなんて、やっぱり大人っていい。びっくりしたのはおじいちゃんが脱サラのさきがけだったってことだ。おじいちゃん、大学卒業後は当時は人気の炭坑の会社に就職したらしい。けれど、石炭から石油へエネルギーシフトのせいで仕事=後始末。同期の東大生はこりゃ楽だ、といって喜んでいたけど、おじいちゃんはこんなの違うと思って2年でやめたらしい。で、北海道へ来て農業をやるようになり、趣味でスキーをやっていたらペンションが儲かるらしいことを聞いてペンションも始めたらしい。学生が合宿に使いにも来るようで結構楽しいらしい。最近は自分でホームページも作ってそこから予約もできるようにしたらしい。やばい。俺ホームページすら作れないよ。世間ではおじいちゃんのほうがそういうのについていけてないらしいけど俺の家族は逆だよ。今度教えてもらおうかな。大学受かってからかな。俺が子供から大人になってきた年頃だからだろうか。大人のトークが変わってきたような気がする。相手が俺をみてかえてきたのか、俺が今までフィルタをかけていて気づかなかったのかわからないけど毎年同じことの繰り返しだと思ってきた夏休みの帰省が結構面白くなってきた。そういえば農業も毎年同じことの繰り返しだと思っていたけどそうでもないようだ。初めて収入についても教えてもらった。やっぱおじいちゃんってすげー。けど赤字の年もあったって。そんな当たり外れの激しい仕事を今までずっとやっているなんて、やっぱサラリーマンは向いていなかったんだな。ん?親父がなんだか楽しそうに見える。こういうのって男のロマンみたいなものなのかな。来年は一人でここに来よう。おじいちゃんと俺とで色々話がしたい。たぶん、いや絶対面白い。こんな人俺の周りにはいないもんな。そうか親父にとってもこんな人周りにはいないのか。
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「よー、お前が田舎帰ってる間にかなり頭よくなっちゃったもんねー。いいだろ」
「そうか、良かったな。いいんじゃないか、まぁたくさん勉強してくれよ。」
「は?なに言ってんだよ?受験生なんだから勉強するの当たり前だろ!おまえどうかしたのか?」
「あー一応悟ったというか、俺のいる世界が狭いということを知っただけだよ。もちろんこれからの世界も」
「なんだ?宗教?お前大丈夫?」
「大丈夫だって。もちろん勉強するし、お前に負ける気ないから。じゃあ早速授業受けてきまっす」
「・・・あいつ田舎でも勉強してたのかな。」

終わり。
ただ書いてみただけ。