夢しか見れない3

「ないんですかー。近くの書店でありませんか?渋谷?じゃあ私が直接行きます。ありがとうございました」
やっぱあの本、人気なんだなー。さすが就活終了第一号の友人が言うだけある。はー早く渋谷行かなきゃ。
あ、あった。あの人手に取ろうとしてる!先にとらなきゃ!のろわれる!・・・
・・・
はーやっと手に入れたよ。電車に乗っている間に読むことにしよっと。
「え?なにこれ?トラックは左回りなことからもわかるとおり、私たちは今まで左回りが普通と感じてきたのです。楽だと感じてきたのです。もし何かを見つけたかったら右に回りなさい。世の中に沿って波風立てずに生きたいのなら左に回りなさい!!!・・・なにこの前書き。どこかの宗教?あいつなんでこんな本私に薦めるわけ?というかなんでこれが売れてんの?」
この本があれば就職活動も無事乗り越えられると思っていた私は落胆するしかなかった。というより確実に友達なくした。彼氏とは就活のことでけんかして別れちゃったし、負けたような気分になるから今更連絡取りたくないし。はー。夕方からの面接行く気なくしちゃった。もう今日は寝たいよ。誰か助けて・・・
・・・
「本当に買ってるよ、あの子。まさか本気にするとはね。やっぱり切羽詰ってんだろうね。いい気味ーきゃはは。」
・・・
バッ!!思わず声でちゃった。なにこれ?考えすぎてあいつの言葉まで妄想しちゃった。あーもう吹っ切れた。もう一生現実逃避する。まず田舎帰ってお見合いする。年末に結婚して来年の秋には子供産んで、子供は一人っ子で、男の子で、2歳で英会話に通わせて、3歳で会話はすべて英語で4歳で遊び場は米軍基地出5歳のときにお父さんの転勤でNY行って、6歳で同時爆破テロにあうけど私と子供だけ奇跡的に助かって、保険金たくさん受け取って私は28歳で未亡人になって子供は7歳で普通の小学校に入学したあといじめられて「私立いくー」と言わせてから私立に行かせて、私は29歳で初お見合いして30歳で再婚して、子供は12歳のときお受験でKOに行かせて、あとはエスカレータでどこか好きな学部に行かせて、私は32歳で小説書き始めて、江國香織唯川恵を足して2で割った感じがいいなんて評判で売れ始めて、見た目がいいから(SK−Ⅱのおかげで)TVにも出始めて、お茶の間の代表な感じになって、いつのまにかファッション雑誌のモデルにもなって、二足ならぬ三足のわらじになって・・・
zzz
ハッ!!寝てた。あー面接無理じゃん。ん?渋谷だ・・・そっか周ってきたんだ。この本返してこよう。なんか私にだけは呪われている気がする。
「すみません、返品したいんですけどいいですか?」
「え?あ、はい・・・(これ、売れるんだけど返品も多いんだよなー)わかり・・・ましたー・・・ではレシートを見せてもらえますか?」
「あ、くしゃくしゃですみません。これです」
「あ・・・はい(うわ。2時間前じゃん。こりゃ最速だわ。)・・・少々お待ちください・・・」すったかたったったー。
無事返品作業も終了し、
「あー。すっきりした。パステルのなめらかプリンでも買ってプチ幸せでも感じよっと」